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日本人のアルミニウム摂取状況と最近の研究 (最終回)
昭和女子大学助教授・福島正子氏講演より
医薬品で多いアルミニウム含有量
 私たち日本人が一般的な食生活でどのくらいアルミニウムを摂取しているかを、具体的な献立で計算してみた。
 たとえば朝、パンを食べ、昼と夜が和風の食事の例では、パン、まびき菜、お茶などは比較的アルミニウム量が多いが、1日では2.4mgの摂取となる【表1】。別の献立では、朝、ごはんと焼きのりなど、昼に食パン、夜に魚を食べるとやや高めの値になり、3.1〜3.2mgとなる。少し洋風の食生活では、チーズトースト、牛乳などが高く、スパゲッティ、ハンバーグ、紅茶などで、1日3.7mgになる。パンを食パンからクロワッサンにすると一気に2mg上昇する。これらの計算では、平均的な食生活で1日3〜5mgのアルミニウムを摂取していることになる。ただし純和風の場合、1日2mgぐらいの場合もある。
 アルミニウムの含有量が高い献立には、洋食全般が平均4mgぐらいで、和食では天ざるがある。お菓子では、ホットケーキが52mgと高いが、これはベーキングパウダーのためで、今川焼やショートケーキも高い。
 水道水中のアルミニウム量については、17〜18年前ぐらいの調査を見ると、東京の世田谷区、神奈川県の相模川水系など若干高めのところもあるが、高くても50ppbであり、気にするほど多いということはない。
 医薬品は、市販されている薬で低いものは1日67mgで高いものは200mgぐらい、医療用では1〜3gと、食事と比べものにならないほどアルミニウム量が多い。
 このような結果をまとめると、食事から1.5〜3.4mg、お菓子や飲料で1〜50mg追加され、さらに医薬品や調理器具などからの溶出がある。WHOやFAOでは「1日許容量約50mgなら安全」とされており、実際の食生活の中では、ときどきこれを超えることがあるかもしれないという状況である。

【表1】1日の献立例とアルミニウムの含有量
1日の献立例とアルミニウムの含有量

小腸での栄養吸収のプロセス
 摂取したアルミニウムがどのくらい生体で利用される可能性があるだろうか。
 自然食品店で購入した野菜、果実、キノコ、ヒジキのアルミニウム含有量と、それを蒸留水で1時間37℃で振とうしたときのイオン量を調べた。野菜の代表例【図4】では、アルミニウム量の多いほうれん草、小松菜、春菊などの葉菜類では、pH2で3時間振とうしてもイオンは約4分の1しか遊離しなかった。これはケイ素、シュウ酸、各種の食物繊維等と結合し、生物的に利用しにくい状況にあるのではないかと考えられる。
 茶類でも同様にアルミニウムイオン量を調べたが、紅茶や緑茶ではイオンは検出されなかった。茶の浸出液中のアルミニウムは、フッ化アルミニウム、ポリフェノール類、シュウ酸などと固く結合していると考えられる。ただしウーロン茶は若干遊離しやすい。また缶ビールでは、非現実的だが6年間保存したもので、遊離するイオン量が若干増加した。
 これらの遊離したイオンがすべて生体内で吸収されるのではなく、他の食品に吸着されて排泄される可能性があると考え、食物繊維との結合状況を調べた。この結果、鶴の子大豆から抽出した食物繊維(乾物)1g中で21mgのアルミニウムを結合することがわかった。
 同様にカルシウムでは、食事からとった750mgのうち、300mgが腸管から吸収され、残りは排泄される。吸収された分のうち150mgは、古くなった細胞に含まれ、細胞の剥離とともに糞便中に移行する。吸収された残りは尿中に排泄され、その結果、成人の体内のカルシウム濃度は一定量に保たれている。このような作用を「ホメオスタシス」というが、成人の場合、必須金属などは体内での濃度が厳重に管理されている。また体内での最適な濃度範囲は、鉄などは広いが、銅などは狭く、つまり有毒になりやすい。アルミニウムにおいても、どの範囲で有毒になるかという研究が、必要とされているのではないだろうか。

【図4】野菜のアルミニウム量(μg/g)およびイオン化率(%)
野菜のアルミニウム量(μg/g)およびイオン化率(%)

進む生化学的アプローチ
 次に、最近のアルミニウムの摂取に関する研究の例を紹介する。
 アカゲザルの脳にアルミニウムが蓄積すると、脳内のすべての部位でカルシウムATPアーゼ活性が低下したと報告された。この物質は、細胞内のカルシウム濃度を一定に保つポンプの役割をする酵素で、これが低下するとカルシウム濃度が上昇し、ホメオスタシスが狂わされるという。
 このほか、肝臓のカルシウムイオンのホメオスタシスにアルミニウムが影響を与えるという報告がある。カルシウムイオンが細胞内に蓄積すると、筋肉などは収縮しつづける。今後、パーキンソン病などについて、このカルシウムATPアーゼとの関係が述べられるかもしれない。
 次はアセチルコリンへの影響に関するもので、長期のアルミニウム投与はアセチルCoAを減少させ、アセチルコリンの遊離を阻害するという報告である。アセチルコリンは神経伝達物質であり、ビタミンB12を補酵素としている。一般に老齢化するとアセチルコリンは低下するという。
 このほかにもいろいろあるが、最近のアルミニウムに関する研究を見ると、細胞内外の酵素活性を取り上げた、より詳細な生化学的研究にシフトしつつあるようだ。また、以前のように非常に濃いアルミニウム濃度での実験は減り、より生理的な範囲でまとめようとする傾向が見られる。(完)

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