はじめに
700MHz帯車車間通信型車載器の試作機を用いて、当共同研究体では広島地区第二期ITS公道実証実験連絡協議会に参画し、路面電車1編成と自動車1台の間で車車間通信を用いて衝突可能性を知らせる安全走行支援プロトタイプサービスの公道実証実験を2013年秋に広島市内公道で行った。車車間通信ログデータの分析より、ニーズ分析に基づいて構築した各サービスが通信型安全走行支援サービスとしての動作タイミング基本要件を満たすことから、構築したシステムの妥当性を確認した。さらにシミュレータ実験により、公道実証実験では確認困難な個別状況も対象に、アンケート調査と行動指標によって見通し不良状況を主体とするサービスの有効性を確認した。
路面電車と自動車の車車間通信型走行支援システムの構築
(1) 走行支援サービスの設定
広島電鉄(株)で2012年度に発生した路面電車と自動車が関連する輸送障害の7割以上が路面電車と併走車両・交差点での右折車両・直前の横断車両の間で起きている。運転指導教育の徹底により事故件数全体は10年間で半減したが、近年は下げ止まる傾向にある。とくに運転手の目視注意に大きく依存してきており、高齢化・国際化で複雑化すると予想される今後の道路空間上の安全対策を充実するにはITSの導入も期待される。上記3状況は広島電鉄(株)運転手109名のアンケートでも支援ニーズが高いこと、いずれも同一方向に向かう車両1台どうしの車車間通信で事故回避を期待できる基礎的状況であることから、路面電車−自動車間通信型安全走行支援プロトタイプサービス(TypeA〜C)としてシステム構築した。
(2)車車間通信型走行支援システムの構築
広島電鉄1002号車「PICCOLA」(左)とマツダ試験車両「マツダ アテンザASV-5」(右)双方に700MHz 帯車車間通信用車載器(ARIB STD T-1091.0 版準拠:ASV車載器)を搭載した。 ASV車載器は、GPS位置情報・速度・ウィンカー点灯有無等の情報を交換し、各車両は受信した他車情報を自車情報と比較して衝突余裕時間(TTC)で注意喚起サービスの必要性を判定する。注意喚起の必要があると判定された場合、路面電車では音声案内とディスプレイ表示、自動車ではヘッドアップディスプレイでの表示と喚起音によりそれぞれ相手車両の接近を注意喚起する(図1)。
(図1)構築した世界初の路面電車−自動車間通信型安全走行支援システム
実証実験による評価
公道実証実験によるシステム評価
(図3)公道実証実験で実現した各サービス
広島地区ITS公道実証実験連絡協議会(事務局:中国地方整備局広島国道事務所)に参画して、2013年9月末と10月中旬の計4日間にわたり「広島における世界初の路面電車―自動車間通信型ASVデモ」として実証実験を実施した。ASV車載器を搭載した路面電車1編成と実験用自動車1台が上述のサービスTypeA〜Cを実現する走行コースを広島市内公道(広電電鉄江波線(江波―舟入本町)および沿道(舟入通り))に構成して、運転手7名で、のべ25回のコースの1往復走行ごとにTypeA,C を1回ずつ、TypeBを2回ずつ、つねにサービス動作状況で走行実験を行った(図3)
(図2)広島公道実証実験の模様
まとめ
路面電車−自動車間の車車間通信型安全運転支援プロトタイプサービスを構築し、公道実証実験・シミュレータ実験・試験線実験から以下を確認した:
- ・衝突回避可能なタイミングでシステム動作する
・見通し不良状況でのサービス効果が大きい
・受容される適度なサービスタイミングがある
謝辞
本研究は東京大学生産技術研究所・マツダ(株)・広島電鉄(株)・(独)交通安全環境研究所による共同研究として実施し、公道実証実験に際しては広島地区ITS実証実験連絡協議会各位のご意見と多大なご協力を賜った。評価検討には、国土交通省国土技術政策総合研究所受託研究の支援を受けた。関係各位に謝意を表する。