■はじめに |
アルミニウムは地球上に豊富に存在している。その量は地殻の8%を占め、酸素、ケイ素に次ぐ3番目に多い元素である。生物は地上でアルミニウムと共存しながら今日に至っている。アルミニウムが金属として利用されはじめたのは比較的新しく、19世紀に入ってからだが、古くから明礬などの形で身近にあった。1886年、アルミニウムの電解製錬法が開発され、急速に普及した。最近の国内アルミニウム市場は400万トン規模に達している。
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■日本での「アルミニウム危険説」の広まり |
日本では1992年頃からアルミニウムとアルツハイマー病の関連が一部のマスコミで報道されていたが、特に1997年のピーク時には新聞、テレビ、書籍等に数多く取り上げられた。
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【1997年の「アルミニウムとアルツハイマー病」関連の主な報道】 |
1月 |
月刊誌「現代」(2月号) 大特集:ここまでわかった「脳の不思議」 |
3月 |
フジテレビ「報道2001」“働き盛りを襲うボケの恐怖とアルツハイマー病の新原因” |
4月 |
月刊誌「This is 読売」“ボケ研究最前線−いま100万人に何が起きているか” |
4月 |
週刊誌「週刊金曜日」“アルミ片の恐怖” |
6月 |
月刊誌「わかさ」カルシウム、マグネシウムによるアルミ有害防止法 |
6・7月 |
朝日新聞社 連載記事“現代養生訓”
第 9回 「アルミ調理器具巡り両論」
第10回 「アルミ毒性断定にはデータ不足」
第11回 「アルミ対策まずは飲み水に注意」
第12回 「アルミを巡る疑問にお答え」 |
8月 |
テレビ朝日「お昼のN天ワイド」“アルミニウム人体に有害か?の話題” |
9月 |
月刊誌「科学」“アルツハイマー病の発症プロセスと危険因子” |
11月 |
月刊誌「ゆほびか」11月ボケを招きアルツハイマー病を引き起こす危険大のアルミニウムを避ける法” |
11月 |
月刊誌「自然と健康」11月号“子供を情緒不安定にさせる鉛、水銀、アルミニウムの有害ミネラル” |
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これらの報道の多くは、よく読めばアルミニウム危険因子説は「仮説」であるとしているものの、タイトルや見出しは断定的で、その「仮説」がさも立証されたものであるかのように受け止められ、視聴者や読者に刷り込みが行われた。アルミ製の調理器具を避けようとする動きも出た。
金属アルミニウムに毒性はないが、アルツハイマー病の危険因子とする説が種々のメディアを通して数多く流れたため、社会や消費者の誤解を招くことになった。この頃までに多くの人々にアルミニウム危険因子説が広がったものと思われる。
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■消費者への刷り込みの実態 |
当協議会は、2001年アルミニウムとアルツハイマー病に関する消費者アンケートを首都圏の男女1,000人を対象(回収数761)に実施した(結果はニュースレターNo.10に掲載)。この中の一部を抜粋して紹介する。
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アルミニウムの危険因子説を「聞いたことがある」とする人は全体の39%で、その情報源としては、(1)テレビ(45%)、(2)本・雑誌(34%)、(3)友人(25%)、(4)新聞(24%)の順となり、口コミよりもメデイアによる認知が多い。
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・ |
「アルミニウムとアルツハイマー病に関係があると思うか」との問に対しては、「わからない」が半数(48%)を占めたが、残りは「かなり/少しは関係していると思う」と「全く/あまり関係ないと思う」が26%ずつと、半々だった。当然ながら「アルミニウム危険因子説」を聞いたことのある人が「関係あり」とする比率が高く、中でもマスコミから情報を得た人は一段と高くなり、マスコミの影響力の大きさが裏付けられた。
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「あらゆる食品はアルミニウムを含んでおり、特にパン、海藻などに多く含まれることを知っている」は11%、「WHO(世界保健機構)などでは、関連がないとの見解を出していることを知っている」は7%にとどまり、正しい知識を持っている人は少数だった。
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■公的機関等の見解 |
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WHOは1997年に「アルミニウムが現時点においてアルツハイマー病の病因であるとの裏付けは得られない」と報告した。(資料2) |
日本でアルミニウム危険因子説が注目されたのは1990年代だが、欧米では1960〜1970年代からアルミニウムとアルツハイマー病の関係が疑われ、アルミニウム危険因子説(仮説)に基づき、多くの研究が行われた。これらの研究では、仮説を支持するものがある一方で、仮説を否定する研究も多く見られた。
1996年、WHO(世界保健機構)は過去の研究を検証した結果、さらに研究が必要であるとしながら、疫学的証拠と生理学的証拠の双方から、「アルミニウムが現時点においてアルツハイマー病の病因であるとの裏付けは得られない。」(資料1)と報告した。
また、1997年には「アルミニウムは人を含めたいかなる動物種においても、生体内でアルツハイマー病の病態を引き起こさない」(資料2)と結論づけた。
1995年の米国アルツハイマー病協会のパンフレットにも「アルツハイマー病とアルミニウムを含む医薬、制汗剤、飲料水、その他、製品の間には明確な関係がない」と掲載されている。
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米国アルツハイマー病協会パンフレット。「アルツハイマー病とアルミニウムを含む製品の間には明確な関係がない」と掲載されている。 |
先に紹介した1997年の報道のほとんどは、これらの機関がアルミニウムとアルツハイマー病の関係について見解を示した後、すなわち、欧米では既にアルミニウム危険因子説が否定されていたにもかかわらず、これらの情報には触れられず、アルミ危険因子説のみが繰り返された。もし、報道関係者が世界の動向やこれらの機関の見解を参考にする努力をしていたら、偏った内容にはならず、一般社会に動揺を
与えることはなかったことと思われる。
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■最近の問題記事への対応 |
今日においても、仮説のみを取り上げたり、あたかもその仮説が証明された事実であるかのように報道されることが多く見られる。当協議会は、そのような報道に対し問題箇所を指摘して訂正を求めている。(下表参照)
事例の多くは、偏った、不正確な情報を安易に反復再利用しているように見受けられる。健康に関することを軽々しく扱ってはいけないと協議会は常々自戒しているが、社会的な影響力を持つ報道関係各位には、特に理解を求めたい。本誌(ニュースレターNo.10)でもお願いしたが、以下の点に留意して頂くよう、重ねてお願いしたい。
(1) |
アルミニウムと健康、毒性、食品、等をテーマとした記事・番組を作る場合、健康や毒性に関する一般的な基礎を理解してから制作すること。 |
(2) |
アルミニウムと健康問題の全体像をよく伝えること。偏った見解のみを強調せず、専門機関や大多数の専門家がどう考えているか、併せて紹介すること。
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【報道内容の訂正に応じて頂いた事例】
以下は、当協議会の要請に基づき、訂正に応じて頂いた例である。
1. |
「未来材料」2003年第7号:「潤滑剤のいまむかし」 (株)エヌ・ティ・エス発行
問題箇所: |
脱臭剤は体内にアルミニウム金属が蓄積する最大の原因となっている。また、アルミニウムは脳に蓄積するとアルツハイマー病を引き起こす。 |
訂正記事: |
「未来材料」9月号に掲載された。 |
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2. |
「リンカラン」2003年Vol.2:“自然療法「ホメオパシー」のふしぎ” (株)ソニーマガジンズ発行
問題箇所: |
アルミ缶のアルミニウムが体に溜り、頭がぼけ、忘れるのはアルミニウムのせいとした。 |
訂正記事: |
「リンカラン」Vol.4に掲載された。 |
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3. |
「家庭医学大百科」 (株)永岡書店発行
問題箇所: |
老人のぼけの箇所「微量金属説」の説明で、アルミニウム因子説を掲載していた。 |
訂正記事: |
次回改訂時に訂正するとの回答とその訂正文を受けた。 |
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【報道内容の訂正に応じて頂けない事例】
以下は、当協議会との見解にずれがあり、訂正に応じて頂けなかった例である。
1. |
「週刊文春」10月16日号:「わたしが答えます」(株)文芸春秋社発行
問題箇所: |
水道水中のアルミニウムとアルツハイマー病発症に関する疫学調査を引用し、アルミニウムがアルツハイマー病に関係すると説明し、アルミニウムがアミロイドβ蛋白を多量体化するなど、過去の仮説を定説として扱っている。最後にアルミ鍋をやめること、水道水を飲まないことを勧めている。 |
対 応: |
「過去の仮説に基づく記事は訂正すべき」との当協議会の申し入れに対し、「事実誤認のような重大な間違いを犯している認識はなく訂正に応じられない」との回答だった。WHOなどの資料をお渡ししたが、事実誤認はないとの認識である。 |
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2. |
2004年1月7日産経新聞:「体のミネラル測定します」
問題箇所: |
毛髪検査を事業とする「ら・べるびぃ」を紹介。見出しに「有害な水銀、アルミニウム…必須のナトリウム、カリウム…」とし、アルミニウムを水銀、鉛、ヒ素、カドミウム同様有害ミネラルと分類している。 |
対 応: |
「アルミニウムを有害金属、有害ミネラル」としたことに対して訂正を求めたところ、「訂正する必要のない記事」との回答だった。産経新聞社から、アルミニウムを有害ミネラルとする裏付け資料「アルミニウムに発癌性ありとするIARC*翻訳資料」が提出されたが、当協議会調査をもとにIARCにはアルミニウムに発癌性ありとした資料がないことを指摘した。この資料は「ら・べるびぃ(株)」から入手したとのことで、取材先からの情報のみによって掲載された今回の記事は、事実誤認を含み正確さに欠け、社会に誤解をもたらすと考える。 |
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3. |
「ら・べるびぃ(株)」毛髪検査会社
問題箇所: |
産経新聞記事の出所「ら・べるびぃ(株)」は、アルミニウムを水銀、鉛、ヒ素、カドミウムと同列の有害ミネラルと位置づけている。 |
対 応: |
アルミニウムを有害ミネラルとした理由を求め、営業活動においてアルミニウムを有害として扱わないよう求めた。「古い資料を掲載しているホームページの一部修正は応じるが、アルミニウムを有害金属とすることは中止しない」との回答だった。 |
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健康への関心が高まるなか、数多くの健康情報を正確に読み、有用な情報を見極めることの重要性が高まっている。このようなテーマに詳しい東北大学・坪野吉孝助教授の講演を2回にわたって掲載する。(2003年9月の当協議会内講演会の要約) |
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坪野 吉孝氏
東北大学大学院医学系研究科社会医学講座公衆衛生学分野助教授。専門はガンの疫学・栄養疫学・臨床疫学。2002年に日本癌学会奨励賞を受賞。
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■健康情報を判断する5つのチェックポイント |
最近はいろいろな健康情報がテレビの健康番組などから一般の人に流されてくる。健康情報がはんらんしている、とさえいえるだろう。この背景には、一般の国民の健康に対する関心の高まり、食べ物あるいは生活習慣と健康に関して世界的に研究が進んでいること、企業やマスコミの思惑などがあると思う。
我々のような実際の人間や患者の集団を対象に研究をしている研究者、専門家がいろいろな健康情報を見て、情報の信憑性を判断するときに、5つのチェックポイントを考える。1つは、それが具体的な研究に基づく話かどうか。2番目は、研究対象は人か、それとも細胞レベル、実験動物レベルなのか。3番目は、論文報告か、それとも学会発表か。4番目は、臨床試験や大規模な追跡調査など信頼性の高い方法による研究かどうか。5番目が、複数の研究で支持されているかどうか、である。5番目まで到達するような情報ほど信頼性が高いし、我々人間に対する重要性も高い。
このうち第1のチェックポイントである「具体的な研究」に基づく話については、逆に、具体的な研究に基づかない話は何かを考えるとわかりやすい。1つは個人の体験談で、たとえば「がん消滅! 50人の感動の手記」というようなものである。もう1つは権威者の意見で、具体的なデータなり根拠なしに、その人が権威者であるからという理由で勧める話は、具体的な研究に基づかないと考えるべきである。体験談の問題点は、病気が治った人がかりに50人いたとしても、これだけでは何人飲んだら何人治ったかという有効率が分からない。このような話はいわゆる副作用についての情報も与えてくれない。また、治ったという人がいるのならば、自分も試してみる価値があるのではないかと思われるが、これでは病気が治っても、その健康食品の効果なのか、同じ時期の手術や薬などの効果なのか区別ができない。
2番目に見るのは、研究対象が人か、あるいは細胞レベルや動物実験レベルかということである。研究の初期の段階では細胞レベルや実験動物レベルで研究をする。しかし、人とラットは種が違うし、投与量が違うので、人間が普通に摂取する量で同じことが起こるかどうかは分からない。
チェックポイントの3番目は、論文報告かどうかである。実験がきちんと行われているか、実験と結論とのロジックは整合性が取れているか、などについて、第三者が評価したうえで初めて論文となり、評価の対象となる。また論文報告になった研究の中でも、実際に対象者をランダムに分け、一方のグループにサプリメントを投与する臨床試験や、何万人や何十万人という大規模な集団を10年間追跡調査するというような研究の結果を優先して考えるべきである。これが4番目のポイントである。
5番目は、複数の研究で支持されているということだ。いくら優れた研究であっても、単独の研究だけである理論が実証されるということは通常なく、複数の研究で一致しているかどうかをチェックする必要がある。
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■大きなトピックとなったベータ・カロチンの臨床試験 |
ニンジンやカボチャなどに含まれるベータ・カロチンは、抗酸化作用、つまり体内に発生した活性酸素が細胞や遺伝子を傷つけるのを予防する働きがあるということで、がん予防に有効ではないかと長年いわれてきた。これを実証するため、ベータ・カロチンのサプリメントの投与とがんの発生率に関する研究が80年代に始められ、90年代の半ば以降にレポートされた。
1993年に中国の地域住民約3万人を対象に行った研究では、5年間の追跡調査で、ベータ・カロチン、ビタミンE、セレン(ミネラル)を同時に飲んでいたグループのがん死亡率が下がったというデータが出た。これは、ビタミンのサプリメントを飲んだ集団のがんの死亡率が下がるということを実証的に示した、世界で最初の研究の1つである。
1994年に約3万人のフィンランド人の男性喫煙者を対象に、ベータ・カロチンとビタミンEを毎日投与して5〜8年間の追跡調査を行った結果、ベータ・カロチン投与群の肺がん罹患率が18%上昇した。また肺がんだけではなく、虚血性心疾患、心筋梗塞や脳卒中などの死亡率も上がるという結果が出た。これは世界中の研究者に非常に大きな衝撃を与え、がんと栄養の研究をめぐる1990年代の最大のトピックとなった。
より大規模な研究では、2003年にイギリスの医学雑誌「ランセット」に、ベータ・カロチンに関する8件の臨床試験のデータをまとめて統計的な解析を行ったものが報告された。結果は、ベータ・カロチンのサプリメント投与群のほうが、非投与群よりも総死亡率が高いというものだった。本来、全く飲む必要のないサプリメントを健康な人が飲んで、寿命を短くしてしまうという、非常に驚くべき結果が明らかになった。
米国では、ベータ・カロチンのサプリメントに対して、日本の厚生労働省に当たる保健福祉省が「がんや循環器疾患(脳卒中や心筋梗塞など)の予防のために、ベータ・カロチンのサプリメントを利用することには、単剤であれ合剤であれ、反対する」というガイドラインを出した。これは非常に強く反対を表したガイドラインであり、国がこのようなものを出すのは極めて異例なことだといえる。
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■理論の正誤より、科学的根拠を見極めることが重要 |
現在は具体的な研究に基づいていない情報でも、将来正しい知識に昇格する可能性がある。今まで根拠なしに行われていた民間療法の有効性を、科学の方法論で評価していこうという気運が世界的に高まっている。
こういう理論の正誤についてはっきり決着をつけることは、本来非常にむずかしい。だから、このようなチェックポイントから、その理論を支える科学的根拠が十分か不十分かを見極めることが重要だ。その区別こそ、我々がそれを行動指針として採用するに適切なのかどうかという、我々自身の問題と関係するからだ。
本来、マスコミが報道すべきは、科学的に重要な話であり、専門誌にきちんと論文として掲載され、信頼性の高い方法で行われた研究であるべきだ。ところが実際は、科学的に重要かどうかではなく、むしろ記事にしやすい情報が非常に多く報道されている。メディアには報道の権利、自由があるが、中途半端な情報は、がん予防に対する知識を高める上でほとんど役に立たない。市民が行動指針として何を選べばよいのかが、非常にあいまいになってしまうという恐れがあると考える。
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■WHOによる、食べ物とがん予防に関する報告書 |
2003年4月にWHOが報告書を出し、がん、循環器疾患や脳卒中、糖尿病、骨粗しょう症などについての今までの研究を全部レビューして、一つ一つの要因と病気との関係を、「確実」「おそらく確実」「データ不十分」というように分類して判定した。これは非常に画期的な報告書である。この中で、「確実」「おそらく確実」と判定されたものが、5段階まで行った情報ということになる。
この中で、リスクを下げる要因となっているのは、運動と野菜・果物の二つしかない。運動は直腸以外の結腸がん、乳がんのリスクを恐らく確実に下げるということだ。もう一つの野菜と果物は、恐らく確実に口腔がん、食道がん、胃がん、大腸がんのリスクを下げるだろう。とにかく野菜や果物を取り混ぜて、いろいろ食べましょうというのがWHOの報告書の判定だ。
またアルコールは、心臓病の予防にはなるが、非常に多くのがんで、お酒を飲んでいる人の方が発症率が高くなる。がんに対してアルコールはリスクを上げるもので、飲めば飲むほど悪いという話は確実だと、WHOの報告書ではいっている。
それでは、がんの予防に対して結局、何をすればよいのか。確実に分かっていることは、WHOの報告書にあるように非常にシンプルな話で、野菜や果物を多く食べること、これを着実に実行するのがよいだろうと言っており、特別な栄養素に変わった作用があるということは言っていない。
国立がんセンターが約5万人を追跡して、野菜・果物の摂取と胃がんの発生率を比べた研究がある。これによれば、胃がんの発生率が高いのは、野菜や果物を週に1回も食べないという人たちであり、週に2〜3回以上食べている人も毎日食べている人も、胃がんの発生率はあまり変わらないという結果が出た。つまり、週に2〜3回食べていれば、胃がん予防に必要な栄養素はだいたい取れている可能性すらある。まして、ビタミンのサプリメントを取る必要はない。そのほかには、体を動かす、アルコールや塩分、肉類を控える、たばこは吸わない、などというシンプルなことがいちばん科学的な根拠があり、効果的なのだろうと思われる。(次号に続く)
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■食べ物とがん予防をめぐる研究の現状 |
今、二つの医学革命が進んでいる。1つは、ゲノムを中心とする分子医学の進歩である。もう1つは、科学的根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine:EBM)である。これは基礎となる動物実験のメカニズムに加え、実際の人間や患者を対象にし、信頼性の高い研究方法で研究をし、そのデータを重視するということだ。現在、厚生労働省などが中心になり、臨床診療のガイドラインを作る作業が進んでいる。このような臨床医学にとどまらず、食べ物とがん、予防医学の領域にも派生が進んでいる。食べ物とがんに関する研究の中でも特にインパクトのあるものは、医学全体を代表するような専門誌に発表され、多くの関心を集めている。最近10年間に、かつての常識が覆っている、あるいはかなり限定的だと思われるようなデータが多く発表されている。
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■がんの栄養疫学の発展 |
がんと栄養や、がんと生活習慣の研究は、およそ半世紀の歴史しかない。食事に関しての本格的な研究は60〜70年代に始まった。同じがんでも、日本人は胃がんが多くアメリカ人は少ないという民族差や、移民研究などの研究がたくさんされた。
1982年の、全米科学アカデミーによるそれまでの研究をまとめた報告書では「脂肪によって乳がんのリスクが上がるというのは、“convincing”(確実)な科学的根拠がある」と結論付けられた。
ところが、1980年代から前向きコホート研究など、大規模な追跡調査が始まった。また、実際にサプリメントを投与する臨床試験がたくさん行われるようになった。
97年に世界がん研究基金が作った報告書では、「脂肪と乳がんに関しては、“possible”である」となっており、これは1番上の「convincing(確実)」、2番目の「probable(恐らく確実)」に次ぐ、非常に弱い判定である。可能性はあるがまだはっきりしないということで、それ以前よりランクダウンした。
がんと栄養の研究は、昔は動物実験や細胞レベルでしか研究できなかったが、最近は実際の人間を対象とした研究がどんどん行われるようになった。また昔はリスク要因の研究が多かったが、最近は予防に関する研究が中心になっている。研究方法も、初期の、相対的に信頼性の低い研究から、追跡調査や臨床試験のような信頼性の高い研究に移ってきたという変化がある。
例えば、乳がん死亡率と脂肪摂取量についての国際相関という有名な研究が、1975年に論文として報告された。これによると、脂肪をたくさん食べる国のほうが乳がんの死亡率が高いとされ、脂肪乳がん仮説というのが70年代ぐらいによく言われた。しかし、脂肪の摂取量が多く、乳がん死亡率も高いのはイギリス、オランダなど西洋の国が多く、同時に子供の数が少ない、女性の初潮年齢が早い、子供を産んでも授乳をしないなどもともと乳がんのリスクが高い国である。そのため、この結果は、たまたま見かけ上の相関にすぎないという可能性がある。
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■緑茶と胃がんに関する疫学研究 |
1つのトピックとして、お茶と胃がんに関する疫学研究の現状を紹介する。お茶の中に入っているカテキンにベータ・カロチンと同じような抗酸化作用があり、がん予防になるということがずっと言われていた。
ある地域相関研究では、静岡県の75市町村でそれぞれの町のお茶の葉の生産量と胃がん死亡率の相関を調べると、弱い負の相関があることがわかった。つまり、お茶をたくさん飲んでいる地域ほど、胃がん死亡率が低い傾向があることになる。しかしこれは、お茶をたくさん作っているから胃がんの死亡率が低いのか、お茶をたくさん作っているところはみかんも食べていてビタミンCが多いからよいのか、あるいは経済的に豊かだからピロリ菌の感染が低いからなのか、区別できない。この場合、より進歩した研究が必要となる。
ほかに、症例対照研究と呼ばれるものがある。がん患者と健康な人を集めて、「昔お茶をどの程度飲んでいたか」を聞いたら、がん患者よりも健康な人のほうがお茶を飲んでいた。つまり、がん患者は、昔お茶を飲んでいなかったからがんになった、健康な人は、お茶をたくさん飲んでいたのでがんにならなかったと推論するやり方である。このような研究のほとんどは、リスクの低下を示すという点で非常に一致したデータとなった。しかし、このやり方では「思い出しバイアス」と呼ばれる問題がある。これは、すでにがんになっている患者に対して質問するのだから、正しい答えが返ってくるとは限らない、ということだ。かつては、このような方法でしか調べられなかった。
最近では「前向きコホート研究」という、大規模な集団を対象にした追跡調査が行われている。98年の調査で、ハワイの日系人約1万2000人を対象として、お茶をあまり飲まないと答えたグループと、お茶をたくさん飲むというグループを追跡し、胃がんの発生率を調べた。すると、お茶をたくさん飲むグループのほうが、有意差はないが胃がんの発生率が高いという結果が出てきた。
また、埼玉県で行われた研究では、8500人の男女を11年追跡したら、全部のがんを合わせて480人ぐらいいた。お茶を飲む人と飲まない人では、お茶を飲む人のほうががんリスクが低い傾向にあった。これは実際に人間を対象にした追跡調査研究なので、それなりに信憑性があるが、たった1つの研究でこのようなことが証明できるわけではなく、いまの段階で結論することはできない。
WHOによる食べ物とがんに関する報告書の中でも、お茶ががんの予防になるということは、確実ともほぼ確実ともなっていない。だから、一般の人にがん予防のためにお茶を飲みましょうといえるほどのデータはまだないのである。
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■最新最良の健康情報をきちんと伝えることが必要 |
最近では新しい大規模な研究がどんどん行われて、知見がめまぐるしく変転している。培養細胞や実験動物レベルのデータも数多く出てくるので、研究者レベルでもいろいろな混乱が生じている。そのような権威ある専門誌に出てくるような発表に基づいた最新、最良の健康情報を、きちんと日本社会に伝えていく必要がある。日本では、そういうものが伝えられる度合いがあまりにも低すぎて、中途半端な話ばかりが出回っている。私個人のホームページでは、代表的な専門誌(「New England Journal of Medicine」「Lancet」)などに出る研究の中で、非常に重要なので一般の方にも知ってもらいたいと思う研究について、できるだけ踏み込んでコメントするようにしている。
また、より組織的、継続的に、優れた健康情報を集めて発信するシステムづくりも重要だ。例えば、アルミニウムとアルツハイマー病という問題に関しても、最新の論文を集めて、個々の論文について要約し、その研究の意義や限界、どう解釈すべきなのかということをまとめ、定期的に整理してレポートするというようなことを、継続していく必要があるのではないかと思う。
現在、厚生労働省の研究班が内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)のヒト健康影響に関する研究を行っているが、ここでは同時に、実際の人間の論文を世界的にまとめてレビューして、それを国民に知らせるという、情報提供もしなくてはならないことでホームページを立ち上げている。このように、国民が非常に不安に思うことだが、正確な情報がなかなか伝わらないものに対しては、何かシステムを作り国民に対して情報提供していくことの重要性がこれからもっと大きくなっていくと思う。
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米国アルツハイマー病協会は、アルツハイマー病に関する情報の発信や、全米のアルツハイマー病患者に対する支援を行っている。同協会は、全米の患者とその家族、介護者に対し広範なプログラムとサービスを提供し、関連する諸問題に関して、連邦、州、地方政府などに対して、患者側の利益を代弁する活動を行っている。また研究支援にも積極的で、アルツハイマー病の原因、治療、及び予防の研究に対して約1億4000万ドルの研究助成をしている。国際規模でアルツハイマー病患者への支援や研究の推進を行う国際アルツハイマー病協会(ADI)があるが、米国アルツハイマー病協会もADIに加盟している。
この米国アルツハイマー病協会のウェブサイト上に「アルミニウムとアルツハイマー病について」というページがあり、アルツハイマー病の発症にアルミニウムは関与しているか、についての最新の知見が公開されているので紹介する。 |
アルミニウムとアルツハイマー病について |
アルミニウムはアルツハイマー病の発症に関与しているか
アルミニウムがアルツハイマー病において何らかの役割を果たしているか否かという問題は、40年間にもわたり研究者らが探求を続けるうちに次第に明らかになってきた。1960年代に、ウサギの脳をアルミニウムに曝露させると神経細胞の損傷が引き起こされ、これがアルツハイマーの病状にある程度類似していることが科学者により発見されてから、アルミニウムが関与している可能性があるという説が浮上した。また、医師も、長期間透析を受けている患者において、血流中へのアルミニウムの蓄積により非アルツハイマー型認知症が発症する場合があることに注目した。このような所見から、アルミニウムはアルツハイマー病の引き金として最初に関与する物質の一つではないかという恐れが生じた。
しかし、その後の研究では、アルツハイマー病の発症におけるアルミニウムの明確な役割を実証できていない。研究者らが問題を探求しようとした視点からは、いずれも一致したデータが得られていない。事実上すべての研究においてアルミニウムがアルツハイマー病と関連している可能性が示唆されている一方で、それらの結果を確認できていない研究がある。
現在、主流を成す科学者の圧倒的多数は、アルミニウムが仮にアルツハイマー病において役割を果たしているとしても、その役割は小さいと考えている。アルミニウム曝露がアルツハイマー病のリスクに大きな影響を及ぼすとすれば、例え特定の要因が研究の妨げになったとしても、科学者がこの問題を研究してきた40年の間に、関与があるという明らかな見解が得られたはずである。これを妨げる要因の一つには、アルミニウムとアルツハイマー病がいずれもどこにでもあることであり、これが両者の関係を特徴付けようとする取り組みを複雑にしている。アルミニウムは、酸素、ケイ素に次いで地球上で3番目に多い元素であり、アルツハイマー病は高齢者において高頻度で認められる。もう一つの要因は、アルミニウムの影響を検討する実験動物がないことである。アルツハイマー病に関する最良の実験動物は遺伝子操作によりヒトのアルツハイマー病の病状を模倣したマウスだが、マウスはアルミニウムに対する感受性を示さない。ウサギは必要な感受性を有しているが、アルツハイマー病遺伝子導入ウサギは存在しない。
アルツハイマー病とアルミニウムの関係についての研究は続けられているが、主流を成す保健専門家の大多数は、最新の知識に基づき、アルミニウムへの曝露は有意な危険因子ではないと考えている。このような共通の確信を持っている公衆衛生機関には、世界保健機構(WHO)、米国国立衛生研究所(NIH)、米国環境保護局(EPA)、カナダ保健省がある。さらに、アルミニウムを含有する調理器具、アルミホイル、飲料缶、薬物、またはその他の製品を避けるなどの措置では、アルミニウムに対する曝露を大幅に低減することはできないと考えられる。仮にアルミニウムが明らかにアルツハイマー病に関わっているとしても、これらの曝露経路が平均的な個人摂取量に占める割合はごくわずかである。大多数の専門家は、健康への取り組みを行う上では、健康または生活の質に影響を与えることが証明されている対策(禁煙、定期的な運動、適度な食事、社会的関係の維持、および知的好奇心の維持)に焦点を合わせることを奨励している。
長年にわたり得られている矛盾したデータとはどのようなものか
以下の点は、アルミニウムとアルツハイマー病について得られた矛盾する所見の一部を要約したものである。
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アルミニウムは神経系に対し毒性を示すことが知られているが、その作用はアルツハイマー病のものとは異なる。 |
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アルツハイマー病の脳においてアルミニウム濃度が上昇することを示す研究もあるが、示されていない研究もある。これらの研究の中には、アルミニウム量を重量により測定した「バルク(一括分析)」研究も、レーザーマイクロプローブを用いた先進分析も含まれている。 |
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神経細胞の実験培養において、アルツハイマー性異常の顕著な特徴であるアミロイド斑を形成する蛋白質断片ベータアミロイドの凝集をアルミニウムが促進するといういくつかの証拠が得られている。しかし、アルツハイマー病患者においてアルミニウム濃度とアミロイド斑の密度を関連付ける取り組みでは、結論が得られていない。 |
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研究では、アルミニウムに対する職業的曝露を受けている人々においてアルツハイマー病のリスクが明らかに高まることは実証されていない。 |
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最も一貫した関係が認められたのは、飲料水中のアルミニウム濃度上昇とアルツハイマー病発現率の上昇を検討した研究である。しかし、茶は、葉に大量のアルミニウムが蓄積されている数少ない植物の一つであり、茶を煎れるとそのアルミニウムが浸出されるが、伝統的に大量の茶を飲む文化の中でアルツハイマー病の有病率が高いという証拠は認められていない。 |
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アルミニウムの国際団体であるIAI(International Aluminium Institute、国際アルミニウム協会)内の第9回グローバル・ヘルス・リサーチ作業委員会(GHRWC)が、同IAI第38回健康委員会と合同で2003年10月にロシアのサンクトペテルスブルクで開催された。
GHRWCは1999年に設立され、アルミニウム製錬工場などにおける労働衛生が主な対象で、その活動の一部としてアルミニウムとアルツハイマー病関連の調査が行われている。今回は9回目の開催であり、多くの議題が取り上げられたが、アルミニウムとアルツハイマー病に関する情報は以前より少なくなっている。基金プロジェクトの一つでは、アルツハイマー病患者脳中のアルミニウム蓄積レベルは正常の人に比べて増加していないということが非常に明確に示されたとの報告があった。
当協議会は、アルミニウムとアルツハイマー病に関係する最新の情報を得るため、次年度も引き続き、アルミニウムの毒性に関する年4回の文献レビューなどを継続して入手していく。 |
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当協議会議長・友田和典氏 |
「アルミニウムと健康」連絡協議会は、発足以来すでに7年にわたり、調査研究、広報など多角的な活動を展開してきた。今回は、本年4月に当協議会議長に就任した友田和典氏(住友軽金属工業(株))に、今後の活動の方向性についてお話をうかがった。
―― 以前は「アルミニウムの健康への影響」について話題となることが多かったが、最近ではどうか?
今から10年位前に、「アルミニウムが体内にたまるとボケの原因になる」とか「アルミニウムはアルツハイマー病を引き起こす」というような説が世間に広まったことがあった。当協議会では、アルミニウムに関する誤った説を払拭し、正しい理解を広める活動を行なってきた。このような説は次第に沈静化してきたが、最近でもテレビや新聞、出版物などで誤った情報が取り上げられることがある。その多くは、アルミニウムと健康の関係を真剣に取り上げるのが目的ではなく、話題のひとつとして取り上げているにすぎない。したがって、最新の研究に基づかない情報や、以前の資料の引用に過ぎない場合もあるようだ。
―― 誤った風評に対して、現在どのように対応しているか?
マスコミの誤った報道などについては、協議会としての対策方法をまとめている。私たちは、正しい情報に基づいてきちんと対応していくことが重要だ。
ただ、このような風評が広まった根本的な理由は、アルミニウムについての基本的な知識が一般に知られていないということがあると思う。基本的な知識とは、たとえば、アルミニウムは地球上に広く分布する元素であること。そのため、私たちの生活空間や食べ物、飲物にも多く含まれていること。WHO(世界保健機構)の調査によれば、私たちは一日に2.5〜13mgのアルミニウムを摂取しているが、これは許容摂取量*に比べると極めて微量であること、またアルミニウムは、鉄などのような必須元素ではないが、体に害のある元素でもないこと、などである。
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「誤った情報に振り回されないようにしてほしい」 |
一般の人は、このような基本的知識がないと、誤った報道や説を信じやすい。それを他人に話したり伝えたりして風評が広まり、この繰り返しにより誤った情報が刷り込まれてしまう。最近はアルミニウム危険因子説が沈静化しているが、じつは以前の情報の誤りが訂正されないまま現在に至っているのかもしれない。
以前「銅の緑青は猛毒」という説が流れ、多くの人がこれを信じていた。調査研究の結果、現在はこの説は否定されているが、この風評が否定されるまでには長い年月がかかっている。この例のように健康に関する風評というものは、一度広まるとなかなか払拭されないものなのだろう。
* WHOとFAO(国連食糧農業機関)がまとめたアルミニウム許容摂取量は7mg/週・体重kg
―― 協議会の今後の活動の方向は?
まずは、アルミニウムについての基本的な知識を、多くの人にわかりやすく伝え、理解してもらうことに努めたい。そのためには、効果のある広報活動を継続的に行なっていくことが必要だ。たとえばパンフレットの配布、講演など、機会を捕らえて地道に行なっていきたい。
また、アルツハイマー病へのアルミニウムの影響についての調査研究を、積極的に支援していく。現在、アルツハイマー病の原因について完全には解明されていないが、研究者の間ではアルミニウムが原因だと考えている人はほとんどいない。2002年4月に開催したフォーラムでは、専門家からアルツハイマー病研究の最前線について解説してもらい、多くの参加者に好評を得た。このような機会を設け、正しい知見を得るとともに、これを公表していくことも重要な活動だと思う。協議会では、IAI(国際アルミニウム協会)のレポートなどの利用も図っている。
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2002年4月に開催したフォーラムではアルツハイマー病の最新の研究が報告された |
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ホームページによる情報発信も活動の一環
(当協議会ホームページより) |
―― 一般の消費者に向けて伝えたいのはどのようなことか?
私たちが「地球にはこれだけの量のアルミニウムが存在する」と説明すると、「こんなに多量にあるのか」と驚く人が多い。また、アルミニウム分を体内に摂取するのを防ぐためにアルミ鍋を使うのをやめた、という人がいる。しかし、他の鍋に替えても中に入れる水や食材にアルミニウムが含まれていることを理解していれば、アルミ鍋を替えても意味がないことがわかるだろう。
アルミニウムという物質があることを知っていても、それが私たちの生活にどのように関係しているかを知っている人は少ない。アルミニウムの基本的な知識を得て、誤った情報に振り回されないようにしてほしいと思う。
現在、アルツハイマー病の治療薬の研究が世界中で進められている。近いうちにアルツハイマー病の原因が解明され、治療薬が開発されれば、アルミニウムが関係していないことが明らかになるのではないだろうか。
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■誤解が常識としてまかり通る |
こんな経験をしたことのある人は多いはずだ。とくに30代より上の方々は、子供の頃、銅製の雨樋にはりついた緑色のさび、つまり緑青を指して、また銅壺にうっすらと生じた緑青を目の前に、祖父から「こいつは猛毒だから触っちゃいけない」と教えられた。ある時期まで緑青は毒が常識だったのである。これが、いつ頃、なぜ生まれたのかは定かではないが、主な原因は学校の教科書にあったという説がある。
小学校の理科の時間に緑青について学び、ここで習った知識を潜在的に信じていたようだ。たとえば、昭和49年の教科書には「金属のさび」という項目があり、緑青について「しめり気の多いところに銅を置くと緑色のさびができる。このさびは緑青といって食べると身体に害がある」と記述している。
どうして害があるのかについての記述はなく、十分な説明もされていない。
これは学校の教科書にとどまらず、あらゆる百科辞典が、緑青は毒と記述していたのである。くり返すが、なんの科学的根拠もないままに、この説が常識としてまかり通っていた不思議が一人歩きしていたのである。 |
■まずは、科学的根拠の立証から |
この説に根拠はないと考えていた銅業界では、昭和36年、日本伸銅協会を窓口として東京大学医学部衛生学教室豊川行平教授に研究を委託し、翌37年から本格的な第一次の銅の衛生学的動物実験研究を開始した。3年間にわたる長期動物実験の結果、銅と緑青問題について実験は何回か繰り返し行われ、その結果、「緑青中毒は緑青中に含まれているヒ素や鉛のためで、銅塩がなんであろうと、従来考えられていた猛毒であるという認識は間違いで、銅・緑青の毒性は心配に値しない」と結論づけた。
この研究内容は、昭和44年報告書にまとめられ、(社)日本銅センター発行の「銅の衛生学的研究」および「続・銅の衛生学的研究」として公表された。この頃は、まだ社会的に公害問題がクローズアップされていなかったため、学会発表は行わず、報告書の刊行にとどまっていた。
昭和45年を境に、産業公害が声高に言われはじめるようになった。また、前述の報告書の公表にもかかわらず、緑青は猛毒との認識は強く、知識人の間でさえ、この考え方は強く残っていた。そこで(社)日本銅センターでは、昭和46年、当時使用されていた学校の教科書、百科辞典などに記載されている緑青の記述内容と根拠を調べる目的で、その関係者を集め、銅・緑青懇談会を開催した。出席者は、文部省教科書調査官、厚生省厚生技官、教科書・辞典出版社6社、教科書・辞典執筆者(東京学芸大、浦和商などの教師)、大手製薬会社数社、伸銅メーカー技術者等30名が参加し、銅・緑青の有害、無害について討論した。その結果、すべての記述が過去の文献の引用であることが判明し、なんの根拠もないことがわかった。 |
■研究結果を広くPR |
銅化合物を経口的に摂取した際の急性毒性はどの程度のものなのか、銅化合物を長期にわたり摂取したとき、どのような生体影響がみられるか、銅が暮らしに身近な金属であるだけに、その安全性を科学的に調べ、衛生学的に研究することは非常に重要である。(社)日本銅センターでは、昭和49年から3年間にわたり、第二次銅の衛生学的研究を東京大学医学部衛生学教室の和田攻教授に委託した。
この結果、緑青の主成分として知られる塩基性炭酸銅または硫酸銅を400ppm、1,000ppm含む餌でマウスを一生飼育してみたが、生長率、生存率、妊娠、出産などへの障害は観察されなかった。1,000ppm投与群では肝臓への蓄積が認められた。銅の主な蓄積部は肝臓だが、400ppm投与のマウスは1年以上飼育しても銅の蓄積はみられなかった。この程度の摂取レベルでは吸収や排泄の過程で調節機能が働いて、生体内の銅レベルを一定に保つ作用が働いているものと考えられた。
この結果は、昭和51年・52年の日本衛生学会で2回にわたり報告された。また(社)日本銅センターでは、これを「銅の衛生学的研究・3部」としてまとめ、全国の公共機関、大学、図書館、医療機関、新聞、関係団体に広く配布した。 |
■4半世紀を経て実った努力 |
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緑青の顕微鏡写真(200倍) |
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銅の衛生学的動物実験などを通じて、緑青は毒でないことが次第に明らかになった |
このような動きを受け、昭和56年、厚生省では国の機関としてはじめて緑青の動物実験に着手した。3年後の昭和59年8月7日、NHKテレビ朝のニュースワイドは、多くの視聴者の耳目を集めた。約4分間にわたって流されたニュースで、緑青猛毒説が誤った説であることが厚生省の見解として明らかにされていった。
さらに当日の朝日、毎日、読売新聞の朝刊でもこのニュースが大々的に取り上げられた。
毎日新聞は第三面のトップ6段抜きで「緑青は猛毒―濡れ衣だった」―厚生省の研究でわかる、と報道した。また、朝日新聞と読売新聞は第二面に3段見出しで報道した。
朝日新聞は、緑青は猛毒の常識破れる、読売新聞は、緑青の毒は強くない―健康に支障ありません―厚生省の研究、と報道した。この記事は共通して実験データを伝え、緑青が毒物や劇物に含まれるような有害物でないことを伝えていた。
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「緑青猛毒説」は誤りであることを伝えた新聞記事
(昭和59年8月7日各紙朝刊) ((社)日本銅センター資料より引用) |
さらに8月11日の日本経済新聞に10段抜きで、(社)日本銅センターが広告を掲載した。内容は、小学館発行の国語大辞典から「ろくしょう」の項目を大写しにし、「あなたはどう習いましたか、どう教えていますか」と訴えかけていた。
誤解を解きたいという強い思いが集まって、動きを開始してから、誤解が払拭されるまでに4半世紀が費やされていた。
科学的根拠のない説が真実のように言われ、親から子へ、そして孫へと伝承されていったこの緑青猛毒説、これまで重ねて訴えてきた「アルツハイマー病のアルミニウム危険因子説は誤解」に酷似しているといえるだろう。
この厚生省の発表により、公に緑青猛毒説が覆えされたが、その後10年以上にわたり、教科書や辞典の一部にはまだ緑青猛毒説が生き残っていた。これらのひとつひとつに対し、実証データをもとに説明し、正しい表記にかえていく努力を続けていった。教科書や辞典のすべてが正しい表記に変わったのは、これから10年近い年月が経っていた。
その後も(社)日本銅センターは広報誌及びテレビ、ラジオなどのパブリシティ、展示イベント等を通し繰り返しPRをしてきた。特に大新聞、テレビなどの誤った報道には対応し、訂正、再報道の実施をさせた。
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■はじめに;カメルフォードの水道事故 |
昨年12月、英国におけるアルミニウムと健康問題に深い係りをもつ、ウエールズのコーンウオール州カメルフォードの町を訪問する機会を得ました。英仏海峡に面したプリムスまでロンドンから特急列車で約3時間。ここは1620年メイフラワー号が新世界へ出航した地として知られています。18世紀にはスペインやフランスとの戦争に備え、ネルソン提督以下英国艦隊の基地となりました。第二次世界大戦では、ドイツ軍の空襲で町はほとんど破壊されたそうですが、いまは穏かな港町に再建されています。プリムスからカメルフォードまで車で約1時間30分。運転手や道を尋ねた住民が、1988年の水道事故をよく記憶していることが印象的でした。
カメルフォードには、クラウディ貯水池とサウスウエスト水道会社の浄水場があります。1988年7月、20トンもの大量の硫酸アルミニウムが誤って投入され、それが数日間判らず、酸性の水で水道管から溶け出したアルミニウム、銅、鉛、亜鉛、を高濃度に含む水が、地域の住民約12,000人に供給される事故がありました。アルミニウムの最大濃度は、EU基準200 g/リットルに対し620,000 g/リットルであったと記録されています。
このため、アルミニウムによって健康被害を受けたという訴えが続出しました。英国政府の調査委員会は長期的な死亡率の比較を提言し、水道事故の水を飲んだ人と、飲まなかった近隣地域の人の死亡率を、10年間追跡調査した結果が昨年5月に報告1)されました。水道事故の水を飲んだ人の死亡は予想よりはるかに少なく統計的に差がない、とこの報告は述べています。
ここでは、水道事故と健康への影響の専門的な分析は別稿に譲り、アルミニウムと健康問題、つまりアルミニウムがアルツハイマー病の危険因子とする説と、それが社会に与えた影響をふりかえり、問題の本質と我々の活動について改めて考えてみたいと思います。
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■アルミニウムと健康問題の歴史 |
アルミニウム危険因子説は、第1回アルミニウムと健康フォーラムの講師をお願いした、故ヴィスニスキー先生のウサギの実験(1965年)に端を発します。先生は講演の中で、「学会でこの実験結果を報告すると、多くの人がアルミニウムこそアルツハイマー病の神経原線維変化の原因と結論づけ、それが火事のように広がった」と述べています。
さらに1972年、透析脳症という病気が報告されました。人工透析を受けている患者の脳にアルミニウムが蓄積し、神経細胞を障害して痴呆症や運動障害を起しました。透析脳症の原因は1975年に解明され、腎臓の機能障害でアルミニウムが排泄されないこと、透析液のアルミニウムが直接血液にはいったこと、高リン血症予防のためアルミニウム製剤を服用したこと、等が明らかになり、透析液の管理やアルミニウム製剤の服用中止によって、発症が見られなくなりました。
この病気がアルミニウム危険因子説を補強する役割を果たしました。今は、故ヴィスニスキー先生が、「10年以上前はアルミニウムは危険因子の中でも優先順位が高かったが、現在では危険因子のリストから外れている」と述べているように、透析脳症とアルツハイマー病は別の病気であることが理解されています。
透析脳症は解決しましたが、アルミニウム危険因子説による影響は、英国では1990年頃にピークを迎えます。1980年代末から、調理器具やビール中のアルミニウムをターゲットに、アルツハイマー病との関係を取上げたメディアの報道が頻発しました。ビール会社にとって深刻な問題となり、醸造設備や運搬容器をアルミニウムからステンレスに切替えたり、切替えると輸送に不具合が生じたり、大混乱を生じたと伝えられています。英国のビール生産量をみると、1989年までは6百万キロリットルでほぼ安定していましたが、1990年から急に減少し、1992年には5.5百万キロリットルと約8%落込んだ後、緩やかに回復しています。英国には中小のビール会社が多く、危機管理的対応、イメージの低下、減産、ひいては給与、雇用、配当などへのマイナス影響は十分に想像できます。
ウイットブレッドというビール会社の部長シャープ氏は、まず科学的事実を解明し、それを社会に説明し、風説を否定して解決する方針をとり、研究者や政府との連携、研究基金の設置などを進めました。その結果、1993年には英国農水食品省(MAFF)の安全宣言2)が出されました。短期間に安全宣言をリリースするという英国農水食品省の動きは、素晴らしいと思います。1995年には、第2回アルミニウムと健康フォーラムでも紹介された、ウイリアムズ先生のアルミニウムの生体利用に関する論文3)が出されました。この論文は、体内でのアルミニウムの存在形態を分析し、経口摂取したアルミニウムは、胃の検査の硫酸バリウム同様に生体利用されない、つまり健康に益も害もないことを示したものです。
シャープ部長の戦略は成功し、この問題以降、研究者、業界、及びメディアの間で対話や情報交換が行われるようになりました。メディアの一方的な危険因子報道はなくなり、アミロイド斑(老人斑)の解明が、アルツハイマー病解決の鍵であることを紹介する役割を果たしたと言われています。
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■日本のアルミニウムと健康問題 |
日本では、英国から数年遅れて1992年から危険因子説の報道が目立ち始めます。アルミニウム同位体26Alをラットに血管注射して脳に入ることを証明した、湯本先生の学会発表が契機になりました。アルミニウムを注射すれば脳に入ることは、ウサギの実験や透析脳症で十分証明されているのですが、アルミニウム危険因子説が新聞で大きく取上げられました。
続いて1996年には国会でも取上げられ、1996〜1997年頃にアルミニウム危険因子説の報道がピークを迎えます。この稿を書くにあたり当時のファイルを見ると、「アルミニウムは復讐する」、「アルミ調理器具めぐり両論」、といったタイトルの記事の多さに改めて驚きました。英国ではビールがターゲットでしたが、日本では調理器具に変わっていること、またアルミニウムに限ってリスクを論じ、他物質との比較やリスクの程度を論じない、という特徴があります。
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■アルミニウムと健康連絡協議会の見解 |
1996年に設立された「アルミニウムと健康」連絡協議会(以下協議会)は、この問題を科学的に理解することを基本に、アルミニウムと健康フォーラム、内部講演会、海外の研究機関や団体との連携調査、等を行い、アルミニウムと健康問題の解明に努めてきました。そこから得た結論は、アルミニウム危険因子説は過去の仮説であった、ということです。
法則になると生命が長いのですが、仮説は次々に発見される事実の前に検証され、消えていき、また新しい仮説がたてられます。そのような仮説のひとつであったと考えています。この結論を得た根拠は、必要に応じて関連資料4)をご覧頂きたいと思います。
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■報道関係各位へのお願い |
日本では、まだアルミニウムと健康問題をよく理解しない報道が多くあります。協議会の活動が十分でないことを反省して、今後の活動を企画する必要があるのですが、報道関係各位にも理解を求めたいと思います。
昨年、協議会の見解のリリースや、訂正報道を求めるなどした報道は、毎日新聞(大阪版、3月21日)、TBS「スパスパ人間学」(4月4日)、日本テレビ「おもいッきりテレビ」(9月4日)、の3件です。
特に影響力が大きいテレビ番組で、日常の食品について(1)アルミニウムは毒性が高いこと (2)アルツハイマー病に関連すること (3)対策は鉄を多く含む食品を摂取すること等を述べ、アルミニウムと食品、健康に誤解を招く番組が目立ちました。協議会が説明を求めたことに対する対応もさまざまで、かなり理解頂けた放送局がある一方、またいつ非科学的な番組が流れるか判らないという懸念を深める放送局もありました。
まずお願いしたいことは、アルミニウムと健康、毒性、食品、等をテーマとした番組を作る場合、健康や毒性に関する一般的な基礎を理解してから制作してほしいということです。参考として、このテーマに関する協議会の内部講演会抄録5)6)2通を同封します。マスコミの影響は非常に大きいので、この程度は理解してから番組や記事を作って頂きたいと思います。
次にお願いしたいことは、アルミニウムと健康問題の全体像をよく伝えて頂きたいということです。従来の報道は、一部の人の見解を強調して紹介し、全体の動向が解りにくいという問題があります。少数意見を尊重するという立場はよく理解できるのですが、同時にWHO、MAFFなどの専門機関や、大多数の専門家がどう考えているかも併せて紹介する必要があると思います。
健康に関することを軽々しく扱ってはいけないと協議会は常々自戒していますが、社会的な影響力を持つ報道関係各位にも、この点は特に理解を求めたいと思います。
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1) |
P.J. Owen 他: British Medical Journal Vol.324, May 2002
"Retrospective
study of mortality after a water pollution incident at Lowermoor in
North Cornwall" |
2) |
MAFF: News Release "Official Report Finds No Risk From Aluminum
in Food"
7 December, 1993 |
3) |
D.R. Williams: J.Am.Soc.Brew.Chem.,53(2), 1995,"Content, Chemical
Speciation, and Significance of Aluminum in Beer" |
4) |
関連資料
・第1〜3回アルミニウムと健康フォーラム 講演録
・内部講演会記録
ほか多数 |
5) |
千葉百子“生体微量元素の役割”内部講演会抄録 |
6) |
福島正子“日本人のアルミニウム摂取状況と最近の研究”内部講演 会抄録 |
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「アルミニウムと健康」連絡協議会は、アルミニウムとアルツハイマー病に関する消費者アンケートを実施し、このほどその結果を発表した。
「アルミニウムがアルツハイマー病の原因ないし関連因子である」とする仮説は、WHO(世界保健機構)、英国アルツハイマー病協会等が否定する見解を発表しているが、我が国ではこの説が度々流布されている。しかし、これまで一般消費者がどの程度認知しているかを客観的に測定したデータはなかった。
首都圏の男女1,000人を対象(回収数761)とした本調査によると、アルミニウムのアルツハイマー病関与説を「聞いたことがある」とする人は全体の39%であった。
その情報源としては、(1)テレビ(45%)、(2)本・雑誌(34%)、(3)友人(25%)、(4)新聞(24%)と、口コミよりもメディアによる認知が多い。
「アルミニウムとアルツハイマー病に関係があると思うか」との問に対しては、「わからない」が半数(48%)を占めたが、残りは「かなり/少しは関係していると思う」と「全く/あまり関係ないと思う」が26%ずつと半々であった。当然ながら「アルミ仮説」を聞いたことのある人が「関係あり」とする比率が高いが、中でもマスコミから聞いた人は一段と高くなり、マスコミの影響力の大きさが実感される。
一方、「あらゆる食品はアルミニウムを含んでおり、特にパン、海藻などは多いことを知っている」は11%、「WHO(世界保健機構)などでは、関係がないとの見解を出していることを知っている」は7%にとどまり、正しい知識を持っている人は少なかった。
当協議会では、4割が関与説を認知し、1/4が多少の差はあれ信用しているという結果を真摯に受け止め、正しい情報のより一層の広報PRの重要性を改めて認識しているが、同時にマスコミには社会的責任を十分踏まえた、客観的で正確な報道をするよう訴えていくことにしている。
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「アルミニウムと健康(アルツハイマー病)についてのアンケート」主要集計結果 |
調査概要
調査対象:首都圏40km圏内の15〜69歳男女
標本数:発送数1,000、回収数761
調査時期:平成13年12月 |
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<主要設問と回答> |
● |
アルツハイマー病をご存じですか |
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● |
アルツハイマー病にどのような事柄が関係があると思いますか |
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(1) 年齢(高齢化) |
73% |
(2) 遺伝 |
42% |
(3) 食事の傾向 |
30% |
(4) アルミニウム |
28% |
(5) 運動量 |
21% |
(6) ウィルス・病原菌 |
11% |
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● |
アルツハイマー病にアルミニウムが関係しているという仮説がありますが、
聞いたことがありますか |
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・聞いたことがある |
39% |
・聞いたことがない |
60% |
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・どなたから聞きましたか |
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(1)テレビ |
45% |
(2) 本・雑誌 |
34% |
(3) 友人 |
25% |
(4) 新聞 |
24% |
(5)家族 |
15% |
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・そのことを家族や友人に伝えましたか |
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・伝えた |
56% |
・伝えなかった |
24% |
・覚えていない |
18% |
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● |
家で鍋・やかん等のアルミ製品をお使いになっていますか。 |
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・健康(アルツハイマー病)に影響すると思わないので、そのまま使っている |
30% |
・家で使っている鍋・やかんの素材が何かを知らない |
26% |
・健康(アルツハイマー病)とは関係なく、アルミ製の鍋・やかん等はない |
16% |
・今は使っているが、健康(アルツハイマー病)が気になるので
今度買い換える時はアルミ以外にしようと思う |
16% |
・健康(アルツハイマー病)に悪いと思うので捨てた、又は使わないようにしている |
10% |
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● |
あらゆる食品はアルミニウムを含んでおり、
特にパン、海藻、貝類、根菜などは多く含んでいることを知っていますか。 |
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● |
WHO(世界保健機構)などでは、アルミニウムとアルツハイマー病は
関係がないとの見解を出していることを知っていますか。 |
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● |
アルミニウムがアルツハイマー病と関係があると思いますか |
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「アルミ仮説」の認知有無と認知媒体による差異(%) |
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かなり
関係ある |
少しは
関係ある |
あまり
関係ない |
全く
関係ない |
わからない |
全体 |
2.8 |
22.9 |
22.6 |
3.7 |
48.0 |
仮説を聞いた
ことがある |
6.7 |
45.3 |
22.0 |
2.3 |
23.7 |
家族 |
4.4 |
44.4 |
17.8 |
− |
33.3 |
友人 |
5.3 |
40.0 |
32.0 |
2.7 |
20.0 |
新聞 |
8.2 |
42.5 |
19.2 |
2.8 |
27.4 |
本・雑誌 |
8.9 |
44.6 |
20.8 |
3.0 |
22.8 |
テレビ |
9.0 |
45.5 |
20.9 |
0.7 |
23.9 |
仮説を聞いた
ことがない |
0.2 |
8.2 |
23.0 |
4.6 |
63.8 |
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※ |
仮説を聞いたことがある人の方が信じやすいのは当然といえるが、中でもマスコミで知った人はその傾向が強く、マスコミの影響力を感じさせる。 |
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「アルミニウムと健康」連絡協議会(議長 佐藤 昭一)は、 平成14年9月4日の日本テレビ番組"午後は○○おもいッきりテレビ・体内に溜まった有害物質(水銀やダイオキシンなど)を体外に追い出す食品!"における「アルミニウムは毒」とするなどの報道に対し、遺憾の意を表すとともにその科学的根拠の説明を求め、それらの根拠が明らかでない場合は、放送内容を訂正すること、及びホームページからの当該部の削除を求めました。(9月10日付リリース
(PDF:287KB) 参照)
その後、当協議会は報道内容に対する科学的根拠を示すよう、また報道内容とは異なる科学的結論も論じられているにもかかわらず何故合わせてその紹介を怠ったのかにつき、日本テレビと面談を含む数回のやりとりを行いましたが、いまだ満足すべき回答は一切寄せられておりません。今回の報道は、諸説が混在し確定的な科学的結論に至っておらず、ごく一部の仮説にすぎないアルミニウムのアルツハイマー病関与説を一方的に科学的根拠を示すことなく取り上げたのみならず、それを勝手に拡大解釈して砒素・水銀と同列の「毒」と断定する甚だ不用意かつ軽薄なもので、はなはだ"取材・報道における正確さ、公正さ"が欠如したものであると言わざるを得ません。
当協議会とのやりとりを通じて、番組側は番組ホームページに若干の追加情報を掲載したものの放映内容再録部分はそのままであり、番組作りに問題点があったことは視聴者(閲覧者)には微塵も知らされておらず、そのような情報追加を行ったことを視聴者に積極的に知らせる工夫もなされておりません。日本テレビは全国の多数の視聴者に不十分な情報を与えたにもかかわらず、その誤解を解くに足る十分な努力を払っていないものであります。
このような、健康情報を軽々しく扱う番組制作方針に鑑みるに、当協議会としては、日本テレビの姿勢は「日本民間放送連盟の報道指針」に則り、十分にその社会的影響力を自覚しつつ正確かつ公正なる報道をすべく常に努めるべき報道機関としての資質をはたして満足に有しているのだろうかとの疑念を抱かざるを得ません。
ここに「アルミニウムと健康」連絡協議会は、改めて日本テレビの番組制作方針の不正確さや不公正さを、ホームページをご覧になられた皆さんに広く問うべく、これまでの経緯を公開することを決定した次第です。
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TBSテレビで4月4日放送された『スパスパ人間学!サビる脳!&若返る脳!!今から始める脳ミソ丸洗いスペシャル』に対する当協議会からの放送内容訂正要求
(PDF:112KB) について、4月26日にTBS((株)東京放送)より回答がありました。
回答文書をそのまま掲載するとともに、当方とのやりとりを以下に掲載いたします。
1 |
日時:平成14年4月26日(金)13:00〜14:00
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2 |
場所:日本アルミニウム協会 会議室
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3 |
出席者: |
(TBS側) |
(株)東京放送 |
総務局法務部 |
横田部長 |
(株)TBSライブ |
文化情報センター科学部 |
戸田部長 |
〃 |
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玉置考査主幹 |
〃 |
文化情報センター文化部 |
昆部長 |
(協議会側) |
佐藤議長(昭和電工(株)) |
菊地委員(神鋼リサーチ(株)) |
林委員(日本軽金属(株)) |
桂委員(軽金属製品協会) |
古金事務局員 |
4 |
内容主旨:主なやりとりを記す。 |
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TBS: |
(回答文書 (PDF:184KB)
を読み上げた上で)
結論から言えば番組放送の内容の改訂は致しかねる。 |
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協議会: |
当方は個別の学説の是非を論ずるものではない。
しかしながら、番組内でのアルミニウムに関する表現、演出の仕方は極めてバランスを欠き、視聴者にむやみな不安や恐怖をあおる内容となっている。このことに強い憂慮を感じている。 |
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TBS: |
表現、演出の方法については、行きすぎた点があったと思う。 |
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協議会: |
つい先日おこなわれた、当協議会主催のフォーラムの内容を把握しているのか?
放送直後ということもあり、『アルミニウムとアルツハイマー病』の関係についての多くの質問が寄せられている。偏った知見によってむやみな不安が煽られたのではないかと心配している。 |
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TBS: |
フォーラムについて案内は頂いたが、出席はしていない。
当方の放送した番組内では「アルツハイマー病」という病名には一切触れておらず、脳の老化との関係でアルミニウムを取り上げた。
放送内容に添った形でクレームや問い合わせがあったのか? |
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協議会: |
番組内でアルツハイマー病との関係は述べられていないことは充分認識している。
ただ、マスメディアの報道の影響力は大であるということを申し上げている。
当協議会はこれまでも、多くの説があることを充分認識した上で、それらの説に対してバランスを欠くことなく取上げてきた。これは、アルミニウムを生業とする我々の社会的使命だ。なぜならば、もしアルミニウムが我々の健康な生活を脅かすものであるとするならば、我々の社会的使命としてその事実を伝えなくてはならないからだ。
今回の貴社の報道は極めて偏った学者の主張を一方的に展開するのみで、バランスを欠いており、報道機関としての社会的使命を忘れてはいないか。報道機関の使命として最も重要なことは極論を偏向して論ずることなく、社会のコンセンサス、この場合で言えば脳医学の議論の中心が今どこにあるのかを見据え、それを広く伝えることにあると考えている。
その点は如何。 |
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TBS: |
貴協議会からのご指摘を真摯に受けとめ、表現方法についても研鑚を重ね、視聴者に過不足のない情報を提示するよう慎重を期していきたい。
協議会からの申し入れ内容については、TBS社内に周知している。 |
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協議会: |
ホームページに掲載されている情報については、繰り返し偏向した情報を与えることとなる。
速やかに削除されたい。
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TBS: |
了解した。 |
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3月21日付毎日新聞(大阪)・朝日新聞(大阪)、22日付夕刊毎日新聞(東京)などで報道された標記の件について、当協議会の見解は以下の通りです。
1. |
今回の試験は、培養皿中の神経細胞に直接アルミニウムを与えており、生体内で起こりうるかは不明である。(国立療養所中部病院長寿医療研究センター・田平先生朝日新聞談話の通り) |
2. |
与えたアルミニウム量が「水道水中含有量と同程度」とされているが、鳥取大・飯塚先生両紙談話にある通り、アルミニウムの生体への吸収率は極めて低く、「水道水程度」の量が神経細胞に入るためには、相当大量のアルミニウムを摂取する必要がある。
この条件は現実的でないと思われ、またどのような意味を持つのか明らかでない。 |
3. |
一般的に実験研究では、追試で再現が可能か否かが確認されて評価が固まる。学会での発表イコール客観的事実の確定ではない。 |
4. |
以上より、現時点で評価を下すことはできないが、少なくとも「日常的な摂取で生体内に影響があるか」については何ら証明されていない。
また、遺伝子要因の解明が進む中で、環境面の影響がどれだけあるかわかっていないのがアルツハイマー病研究の現状であり、「パニックになる必要はない」(飯塚先生毎日談話)のが、科学的な態度といえる。 |
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一歩一歩進むアルツハイマー病の原因究明とその治療法。今回は、その治療薬開発の最近の動向について紹介する。
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田平 武氏
国立療養所中部病院・長寿医療研究センター長。神経内科学、多発性硬化症、アルツハイマー病、神経免疫相関等専門。日本痴呆学会会長、日本神経免疫学会会長などを歴任。
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