■呆けとは |
呆けとは何かというお話を最初にします。これは書類や人の名前が思い出せなかったりというとアルツっちゃったとよくいいますが,つまりアルツハイマー病になったんではないかと皆さん言われますが,それは違います。人の知能というものは生まれた時にはほとんどゼロで生まれるわけです。それが赤ん坊が言葉を覚えたり,モノを使う,箸を使えるようになったりして成長して行きます。つまりこういう知的な能力が獲得されていくわけですが,一旦獲得された知的能力(知能)が落ちていく,その結果日常生活に支障をきたすというのが呆けと云うわけです。
その呆けの症状というのはいろいろありますが,最も中核的なところにあるのが記憶の障害で,その他言葉とか認識する力,計算する力とかいろんな統合力,こういうのが全体的に落ちていくわけです。呆けという診断をするためには,今いいましたように獲得したものが落ちるということですから,元々獲得していない状態のものは呆けといいません。ですから精神薄弱という生まれながらにあまり発達しない場合,こういうのは痴呆とはいいません。
もうひとつ大事なことは,意識がはっきりしているということです。ある種の薬を飲んで,例えば精神安定剤とかお酒に酔っ払ったときは意識が正常ではありません。そういう状態ではなく,普通の状態,何も薬を飲んでいない状態でしっかり意識が覚醒している,意識障害がない,それでいていったん獲得された能力が落ちているということです。
ところがこの能力自体は誰でも生理的に年齢とともに落ちて行きます。たとえば数学者の能力,物理学者の能力というのは大体20才くらいでピークでその後は激しく落ちていきます。ところが言語の能力,つまり物事や言葉を理解したりあるいは総合的にとらえたり判断したりといった言葉の能力というのは実は年齢とともに伸びていきます。ですから政治家はこういう集積された知的能力をうまく利用できるから年を取ってもなかなか呆けない…。全体的にこの能力というのは年齢に応じて落ちていきます。例えば70才の人の平均はこのくらい,80才のひとはこのくらい,100才のひとはこのくらい,というふうになっているわけですけれども,それより超えて落ちている場合を病的な症状と云います。生理的なレベルで落ちている状態というのは,病気とはいえないわけです。例えば“Kさん,Gさん”を例にみますと,あの人たちは104才くらいになると思いますが,われわれが使っている痴呆の診断テストしますと,10点以下だそうです。これは,あの長谷川式診断テストをよく使うんですが,30点満点で,“今日は何日ですか,何曜日ですか,ここはどこですか,あなたはどちらにいきましたか”,そういう問題がでてきます。30点満点で,20点以上がまあだいたい正常なのですが,あのお二人は10点以下。そうすると明らかにこの痴呆と呼べる状態にあるんですが,100才にしては相当優れている。ですからあの人たちは正常であって,病気とはいわないのです。
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