■治療と予防 |
今までの総まとめとしまして,じゃあアルツハイマー病というのはある程度分かってきたのですから,予防できるのか,原因はどこまで分かって治療法はどうなんだ,というところを最後にまとめてみます(図27)。まず原因因子とか危険因子を除いた方がよかろう。原因因子として遺伝子の異常がわかりましたから,そういった遺伝子を持っている人を,ある程度遺伝学的にどうかするとか。ただし,遺伝学的相談におきましては,子どもさんが,例えば親がアルツハイマー病だと,娘さんが妊娠して,「先生この子どもを堕ろすべきですか」,と聞かれたら,この人が遺伝子の異常を持っているとしても“堕ろすべきではない”,「結婚してもいいですか」,“どうぞ”,「子ども産んでもいいですか」,“どうぞ”といいます。なぜかといいますと,ここまでわかってしまっていますから,その生まれてくる子どもがアルツハイマー病になるには早くてもあと三十年くらいかかります。普通50年くらいかかります。あと10年か20年でアルツハイマー病はほとんど解明されます。20年あれば多分きっと大丈夫。そうするとその子どもたちには間に合うからあんまり怖がらなくてもいい。
それから神経栄養因子の補充,これはどうしたらよいかという質問ですけれども,実験的には今,栄養因子をサルで注射したりしていますから,まだ確立していない。ですから自分が持ってる栄養因子を断たせない。ということは,脳を生き生き若々しく。脳をいかに若々しく保つかということを実行することです。それには体を動かすこと,脳を動かすんじゃなくて体を動かす。よく間違えて頭がぼけないようにするには碁や将棋を打った方がいいと。あれは間違いなのです。つまり,それはまあ確かに麻雀した人は計算して脳の血流増えて,良いのかも知れませんが,体が駄目になってしまったら頭がいくら良くても駄目ですね。
健全な精神というのは健全な肉体に宿るわけですから,元気な体があれば自然に頭は健康になる。ですから,皆さんにいいたいことは,歩き回ったらいい,何でもいいですから動く,掃除でも何でもいい,釣りでもいいでしょう,ゴルフでも何でもいいんです。体をうごかして脳を若々しく保つ。
それから神経原線維変化の形成の抑制ももうかなり,手が届くところにきている。この辺もやがて薬になるのでもうちょっとお待ち下さい。それからこのまえ新聞にだいぶでましたね,脳代謝復活剤,脳循環改善剤というのが痴呆に効かない,ということで4つの薬を使用禁止にしました。確かに期待できるものはほとんどありません。ただ,唯一アセチルコリンという,記憶に非常に重要な物質を補充してやる。この治療法は若干良かったということで初期の痴呆にはよかろうとどんどん開発中です。それから抗炎症剤を飲むもよかろう,ホルモン療法もよかろうということです。その補充療法といいまして,アセチルコリンの欠乏を補おうということがいわれます。どういうことかといいますと,パーキンソン病ではドーパミンという物質が減る,そのために動きが鈍くなってこうなるわけです。ところがドーパミンの物質の前駆体であるエルドーパという物質を飲ませてやるとドーパミンが作られるために元気になる。これが今のパーキンソンの治療です。同じ事がいえるのではないか。アルツハイマー病では脳の深いところにある細胞がアセチルコリンを作れなくなる。従ってアセチルコリンの補充をやってやろうかということで,アセチルコリンを作らせるというよりも,作ったアセチルコリンの分解を阻害する,そういう薬が開発されて今アメリカではすでに許可になって使われている。こういうもので初期の痴呆,記銘カの改善といったものはある程度できる。これからアセチルコリンだけではなく他の伝達物質についても補充療法もある程度は期待されています。
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図27 |
アルツハイマー病の予防と治療
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