■神経細胞死 |
そして何よりもアルツハイマー病では神経細胞がこれだけ減っているということです(図5)。どこの細胞かというと大脳の非常に奥の深い所にあるアセチルコリンという伝達物質をつくる大事な大事な細胞なのです。このアセチルコリンというのは記憶の形成に非常に重要で,その細胞がこんなに減ってしまっています。つまり,アルツハイマー病ではとにかく神経細胞が消えていくということなのです。そして,ここには先程いった老人斑とか神経原線維変化というのは必ずしも見つからない。ということは,あの二つの現象も重要だけれども他に独立して神経細胞が死んでいく機構があるのかも知れないということになります。
それから,ここにひとつの大きな神経細胞がありますが,この神経細胞が機能するためにはネットワークというのを作るわけです。一つの神経細胞の突起が次の神経細胞に情報を送る,その細胞がまた次の細胞に情報を送る,こういうネットワークによって我々の機能というのは成り立っています。記憶にしても言語にしても,認知にしても同様です。このネットワークの最も重要なポイントつまり接点は,ここにある,ぽちぽちぽちと黒くなっている“シナプス”というものです(図6)。“シナプス”というのは,神経細胞と神経細胞の接点を形成している構造物と考えています。この“シナプス”がアルツハイマー病の患者では非常に早くからどんどんちぎれていく,壊れていくことがわかっていて神経細胞が死ぬ段階はすでに遅い,もっと早い段階で症状がでているのは実はこのシナプスが壊れていく機序があるからだ,ということが最近主張されていまして,このシナプスがなぜ壊れていくかということも研究の対象になっています。
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図5 |
アルツハイマー病の脳細胞(上)ではアセチルコリン産生細胞が減っている。 (Peter Whitehouse博士提供))
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図6 |
神経細胞のネットワークの要は,シナプス(神経細胞の接点)で,アルツハイマー病ではこれが真先に破壊されていく
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